地震のニュースを見るたびに、「うちは築40年だけど、大丈夫なんだろうか」と頭をよぎる。でも何をどう確かめればいいのか分からないまま、そのままになっている——そういう方は多いと思います。
私はリフォーム専門の工務店に勤める二級建築士です。日ごろ既存住宅の改修に携わっていますが、この記事は情報提供が目的で、個別の耐震診断や設計・工事監理のご依頼はお受けしていません。そのぶん、「補強が必要な場合」だけでなく「急がなくてもよい場合」も含めて書けると思っています。
この記事では、自分の家がどの時期の基準で建築確認を受けたのか、書類が見当たらなくても確かめられること、そして耐震診断を受けるかどうかをどう考えるかをまとめました。
新耐震でも危ない?1981年・2000年の基準の違い

住宅の耐震性の話では、1981年6月がよく取り上げられます。このとき建築基準法の耐震基準が大きく変わり、それ以降のものは「新耐震基準」と呼ばれています。
ただ、木造住宅にはもう一つ、2000年6月という区切りがあります。このとき、木造住宅について次のような点が明確化されました。
- 耐力壁の配置——壁の量だけでなく、釣合いよく配置することが求められるようになった
- 柱の上下をつなぐ接合部——金物などの仕様が明確化された
- 基礎の仕様——地盤の状況などに応じた基礎の仕様が明確化された
つまり1981年6月から2000年5月までに建築確認を受けた木造住宅は、「新耐震」ではあるけれど、2000年の仕様の明確化より前の世代ということになります。ここが見落とされやすいところです。
誤解のないように書いておくと、この年代の家がすべて危ない、という話ではありません。同じ年代でも設計や施工によって状態はかなり違います。ただ「新耐震だから確認しなくていい」と考えるのは早い、ということです。
まず、自分の家がどの時期のものかを確かめる
最初にやることは、補強の検討でも業者探しでもありません。自分の家がどの時期に建築確認を受けたのかを知ることです。ここが分からないまま話を進めると、必要のない工事にお金を使うことにもなりかねません。
3つの世代に仕分けしてみる
- ①旧耐震(1981年5月31日以前に建築確認)——現在の基準とは考え方が異なります。まず状態を確かめておきたい世代です
- ②新耐震・2000年より前(1981年6月〜2000年5月)——新耐震には含まれますが、2000年の木造住宅に関する仕様の明確化より前の世代です
- ③2000年6月以降——2000年の木造住宅に関する仕様の明確化が反映された世代です
境目は「建てた年」ではなく「建築確認日」
ここが間違えやすいところです。新耐震基準などの適用時期を確認するときは、竣工年だけでなく、確認済証などに記載された「建築確認日」を確認するのが基本です。工事が終わって引き渡された日ではありません。
たとえば竣工が1982年でも、建築確認日が1981年5月31日以前であれば、新耐震基準の適用前に建築確認を受けた可能性があります。木造住宅は着工から完成まで数か月かかりますし、大きな物件ならさらに開きます。「1982年築だから新耐震」と早合点しないほうが安全です。
書類が見当たらないときの探し方
確かめたいのは建築確認済証や検査済証です。とはいえ、築年数の経った家では「そんな書類、見た記憶がない」ということも珍しくありません。順番に当たっていくと出てくることがあります。
- 引き渡し時の書類ファイル——図面や保証書と一緒にまとめられていることが多いです
- 登記簿の新築年月日——建築確認日そのものではありませんが、おおよその時期の見当がつきます
- 自治体の建築計画概要書——建築確認に関する概要が記録されている場合があり、閲覧できることがあります

👆 自治体の窓口は建築指導課・建築住宅課といった名称が一般的ですが、名称も手続きも自治体によって異なります。保存されている期間にも差があるため、まずは市区町村に問い合わせてみてください。
書類がなくても、外から見て気になる家の特徴
書類がどうしても見つからないこともあります。その場合でも、建物の形から気にしておきたい点はあります。ここからは、既存住宅を見るときに一般的に確認されるポイントの一例を紹介します。
先にお断りしておくと、これらに当てはまるからといって、その家が倒れるという意味ではありません。あくまで「気にして見ておきたいポイント」であって、本来は建物の中や図面を見て判断するものです。
建物の角付近に耐力壁が少なく、開口部が大きい
現場で目が行きやすいのがここです。
木造住宅は、耐力壁が地震の力を受け止めます。この耐力壁は、単に量が足りているかだけでなく、建物の平面内でどのように配置されているかも重要です。2000年の改正で耐力壁を釣合いよく配置することが明確化されたのは、まさにこの点にあたります。
建物の角(出隅)付近の壁が少なく、窓などの開口部が大きく設けられている場合は、建物全体の壁配置のバランスに影響することがあります。明るくて眺めのよい間取りは魅力的ですが、構造の面では検討が必要になる形です。ただし、角に窓があることだけで耐震性が低いと判断できるわけではありません。

👆 ご自宅を外から一周して、角付近に大きな開口部が連続していないか、壁の配置に偏りがないかを眺めてみてください。ただし、外観だけで耐震性を判断することはできません。気になる場合は、図面や建物の状態を確認する段階に進むとよいと思います。
1階に大きな開口がある
ビルトインの車庫や、幅の広い掃き出し窓が1階に並んでいる家です。1階は上の階の重さを支える部分なので、ここに壁が少ない場合は、その分をどう補っているかが設計上の検討点になります。
上下階で壁の位置が大きくずれている
2階の耐力壁の位置と1階の耐力壁の位置が大きくずれている場合、上階から基礎まで力を伝えるための梁などの計画が必要になることがあります。外観だけで良し悪しを判断することはできませんが、上下階で壁の配置が大きく異なる家では、図面を確認する際のポイントになります。
増築を繰り返している/建物の形が複雑
後から部屋を足していくと、元の建物と増築部分のつながり方が課題になることがあります。またL字やコの字のように平面が複雑な形は、揺れ方が場所によって変わりやすくなります。
繰り返しになりますが、当てはまる=倒れる、ではありません。同じ形でも、壁の中身や接合部の状態で結果は変わります。ここで挙げたのは「気になったら次に進むきっかけ」であって、結論ではないと考えてください。
耐震診断は受けたほうがいいのか
ここは意見が分かれるところです。売る側の立場だと「受けましょう」の一択になりがちですが、受ける前に知っておきたいこともあわせて書いておきます。
耐震診断のデメリット
- 費用がかかる——自治体の助成が使えることもありますが、条件は地域によって異なります
- 結果によっては、補強など次の対応を検討する必要が出てくる——診断後にどのような選択肢があるかも、事前に確認しておくと安心です
- 数値だけが独り歩きしやすい——評点は前提条件によって変わるもので、一度の数字がすべてではありません
そのうえで、受けておいたほうがよいと感じるのは次のような場合です。
受けたほうがよいと思うケース
- 1981年5月31日以前に建築確認を受けた可能性があり、これまで耐震性を確認したことがない
- 近いうちに水まわりや外壁など、まとまったリフォームを考えている——壁を触るタイミングと補強は相性がよく、別々にやるより無駄が出にくいです
- 増築や大きな間取り変更をしている
- 建物の傾きやドアの建て付けなど、気になる変化が出てきている
急がなくてもよいと思うケース
- 2000年6月以降の基準が適用され、現時点で建物の状態にも特に気になる点がない
- すでに耐震補強を実施していて、その記録が残っている
- 数年以内に建て替えや住み替えを具体的に考えている——補強費用と重複することがあります
「今すぐ全員が診断を受けるべき」とは思っていません。自分の家がどの時期のものかを知り、必要なときに動けるようにしておく——まずはそこまでで十分だと考えています。
その前に、自分でできること
国土交通省住宅局が監修し、一般財団法人日本建築防災協会が公開している「誰でもできるわが家の耐震診断」という自己診断のしくみがあります。木造住宅の所有者や居住者が、自分で問診形式のチェックを進められるものです。
ただし、これはあくまで簡易的な診断で、専門家による診断の代わりになるものではありません。実際に改修を検討する段階では、あらためて専門家に相談することが前提になっています。「気になるかどうかの入り口」として使うのがちょうどよいと思います。
「この家は危ない」と言われたときに確認すること
耐震に関する工事は、建物の安全性に関わるため、不安をあおるような勧誘につながることがあります。突然訪問してきて「無料で診断します」「このままでは危ないですよ」と不安をあおり、その場で契約を求めてくるケースは、各自治体も注意を呼びかけています。
断定はできませんが、こういうときは慎重に進めたほうがよいかもしれません、という例を挙げます。
- その場での契約を強く勧めてくる → 急いで契約する前に、見積書や診断結果を持ち帰って検討する時間を取りましょう
- 診断の結果を書面で残さない → 何をどう見て、どういう根拠でその結論なのかは、書面で受け取るものです
- 床下や小屋裏を見ないまま結論を出す → 外から眺めただけでは確認できる範囲に限界があります。どこを確認したうえで判断したのかを聞いてみましょう
- 不安を強くあおる → 「今すぐやらないと危ない」という進め方には、いったん距離を置いて構いません

👆 自治体が耐震診断の助成や無料の相談窓口を用意していることがあります。訪問してきた業者に頼む前に、まず市区町村に確認してみてください。訪問販売など契約の形態によっては、特定商取引法に基づくクーリング・オフ制度の対象となる場合もあります。不安があるときは、お住まいの自治体の消費生活センターや消費者ホットラインに相談するのが確実です。
補助金は「金額」より「探し方」を知っておく
耐震診断や耐震改修には、自治体の補助制度が用意されていることがあります。ただし金額も条件も自治体によってまったく違い、年度ごとに変わります。ネットで見かけた金額をそのまま自分の地域に当てはめると、話が食い違います。
そこで、金額を覚えるより探し方と仕組みを知っておくほうが役に立ちます。
- 「お住まいの市区町村名+耐震改修 補助金」で検索するのがいちばん早いです
- 窓口は建築指導課・建築住宅課といった部署が一般的です(名称は自治体によります)
- 診断への補助と改修への補助が別制度になっていることがあります
そして、つまずきやすいのが次の2点です。
- 着工前の申請が必要な制度がある——工事を始めてしまってからでは対象外になる場合があるため、事前に自治体へ確認しましょう。「先に契約してしまった」がいちばんもったいないパターンです
- 年度ごとの予算で動いている——受付期間が決まっていたり、予算に達した時点で締め切られたりすることがあります
補強を考えるなら、業者に相談する前に、まず自治体の制度を確認する。この順番だけ覚えておくと損をしにくくなります。
実際に工事の見積もりを取る段階になったら、金額の見方はこちらにまとめています。
まとめ|まずは「うちがいつの家か」を知ることから
この記事の要点を整理します。
- 木造には1981年と2000年、二つの区切りがある——「新耐震だから安心」で止まらない
- 境目は竣工年ではなく建築確認日——1982年築でも旧耐震の時期に建築確認を受けていることがある
- 書類がなくても、建物の形から気にできる点はある——ただし外観だけで判断はできない
- 診断は受ける前に知っておきたいこともある——急がなくてよい場合もある
- 補助金は金額より仕組みを知る——着工前申請と年度予算に注意
いちばん伝えたいのは、不安をあおられて動くのでも、根拠なく安心するのでもなく、まず自分の家がどの時期のものなのかを知っておくということです。そこがはっきりすると、必要なことと、そうでないことの区別がつきやすくなります。
今日できるのは、家を一周して外観を眺めてみることと、引き出しの奥の書類ファイルを開いてみることくらいかもしれません。それでも、何も知らないまま次の地震のニュースを見るよりはずっといいと思っています。


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