中古住宅を見に行く前に、チェックリストを探している方が多いと思います。
調べると項目はたくさん出てきます。屋根、外壁、基礎、床の傾き、日当たり、水回り、におい。どれも間違ってはいません。ただ、リフォームの現場から見ていると、ひとつ抜けていると感じます。
あとで金額が大きくなるところほど、内見では見えないところにあります。
買ったあとに相談をいただくと、「これは買う前に分かっていれば」と思う箇所はだいたい決まっていて、そのほとんどが内見では見えていません。
この記事では、リフォーム専門の工務店で現場を見ている二級建築士として、中古住宅の傷みを「直す費用」で4つに分けて説明します。なお金額の相場は書きません。そもそも金額が出せない状態があるからです。かわりにどこで費用が跳ねるのかを書きます。
中古住宅の内見チェックリストで、いちばん大事なこと
先に結論です。内見で自分の目だけで判定できるのは、たいてい「金額の見通しが立つところ」だけです。
壁紙の汚れも、壁の穴も、キッチンの古さも、内見ですぐ分かります。分かるからこそ気になります。ただ、こうした目に見える傷みは、直すのにいくらかかるかの見当がつきます。金額そのものが大きくなることはあっても、あとから想定外に増えることは少ない部分です。
反対に、床下、壁の中、屋根の中。ここは金額が読めないのに、内見では見えません。
だからこの記事の結論はこうなります。内見で頑張って探すより、「どこまで調査が入っているか」を確認するほうが確実です。
中古住宅の内見チェックポイントは「直す費用」で4段階に分かれる
チェックリストの項目を、同じ重さで並べても判断はできません。屋根と壁紙が同じ列に並んでいても、意味が違うからです。
現場の感覚では、中古住宅の傷みはこの4つに分かれます。
- 費用の予想が立てやすいもの:壁紙、壁の穴、水回りなどの設備。設備は商品そのものが高いこともあり金額は小さくありませんが、何にいくらかかるかは先に分かる
- 直し方で金額が変わるもの:床の傾き、雨漏り。部分的な処置で収まることもあれば、下地やその下の構造からやり替えになることもある。原因と範囲しだいで金額の幅が大きい
- 金額が読めないもの:シロアリの被害。範囲がつかみにくく、見積もりが出しにくいことがある
- 費用や工期を考えると、現実的な選択肢になりにくいもの:建物そのものの傾き

下に行くほど、内見では見えません。見えるものほど金額が読め、見えないものほど読めなくなる。この逆転が、中古住宅ではいちばん効いてきます。
費用の予想が立てやすいもの|壁紙や水回りは、先に金額が分かる
内見でいちばん目につくのが内装です。壁紙が黄ばんでいる、日焼けしている、子どもが開けたような壁の穴がある。
お客さんも、まずここを気にされます。ただ内装はやり替えが前提の部分なので、見積もりを出すのが難しい箇所ではありません。壁紙は張り替えれば済みますし、壁の穴も部分的な補修で収まることが多いです。穴が大きくて下地のボードごと壊れている場合や、柱まで傷が及んでいる場合は別ですが、あくまで表面的な傷みなら、という話です。
誤解のないように書いておくと、ここは「安い」という意味ではありません。とくにキッチンや浴室などの水回りは、商品そのものの価格が高く、金額としては大きくなります。ただ、それはどの商品を選ぶかで決まる話です。買う前に金額を出せるという点では、壁紙と同じ側にあります。
むしろ、内装がきれいすぎる物件のほうが注意が要る場合もあります。売る前に表面だけ整えてあると、その下がどうなっているかは見えません。きれいだから状態が良い、とは言い切れないということです。
「汚いから安くしてもらう」は、判断としては弱い
内装の汚れを理由に値引き交渉をする方がいます。それ自体は悪くありません。ただ、金額が読める部分を材料にして、読めない部分を見落とすようだと、差し引きで損をすることになります。
交渉するなら、次に書くほうを材料にしたほうが金額の桁が違います。
直し方で金額が変わるもの①|床の傾きは原因の見極めが大事
床が傾いている、歩くと沈む感じがする。ここは費用の分かれ目です。
床の仕上げ材だけを張り替えても、傾きは直りません。傾きの原因が、仕上げより下にあるからです。床下地や根太のこともあれば、大引や束、土台、さらに下の基礎や地盤まで原因がさかのぼることもあります。
そのため、原因によっては仕上げをはがし、その下の構造まで手を入れる工事になります。

この「仕上げだけでは終わらない」という構造は、外壁のときとまったく同じです。表に見えているのは一部で、費用は下にあるものの状態で決まります。外壁の場合の分かれ目については外壁塗装は10年で必要?サイディングの家で先に見るのは「目地」で書いています。
数ミリのズレなら、パッキンで高さを合わせる方法もあります
下地のレベルで数ミリ程度のズレで、床組の状態が安定している場合は、根太の下にパッキンを挟んで高さを合わせるような調整で収まることがあります。
ただし、これは安く済むという意味ではありません。パッキンを入れるには根太が見える状態にする必要があるので、その部屋の床は全部めくることになります。調整そのものは数ミリの話でも、はがして戻すぶんの工事は必ず発生します。構造からやり替えるよりは軽い、という程度に考えてください。
そして、この方法が使えるかどうかも原因で決まります。下地のたわみやわずかな痩せなら高さ調整で収まりますが、束や土台、さらに下の地盤から傾いていてまだ動いているなら、高さだけ合わせてもまた傾きます。どちらにしても床はめくるので、部屋の広さも金額に効いてきます。
最初に見るのは金額ではなく、原因のほうです。
内見でできるのは「気づく」ところまで
床の傾きは、内見でも気づけることがあります。歩いたときに足元が落ち着かない、体が片側に引っ張られるように感じるなど、違和感として出ることがあります。建具の開閉に変化が出る場合もあります。
一方で、「歩いて違和感がなかったから、傾いていない」とは言えません。緩やかな傾きは、歩いただけでは気づかないこともあります。気づけたらラッキー、くらいに考えておくほうが安全です。
そして気づけるのと、原因が分かるのは別です。下地が傷んでいるだけなのか、もっと下から傾いているのか。これは床下の確認などを含めた調査をしないと判断しにくい部分です。次に書くシロアリや、あとで書く建物自体の傾きにつながっている場合もあります。
直し方で金額が変わるもの②|雨漏りは直したあとだと分からない
雨漏りの跡は、天井や窓まわりにシミや変色として現れることがあります。クロスの浮きも手がかりです。壁や押入れの中、梁のあたりに出ることもあるので、開けられる場所は見ておくと手がかりが増えます。
ただ、大きな前提があります。すでに直してあると、内見では分かりません。天井を張り替えれば跡は消えるからです。隠しているという話ではなく、直したものは見えなくなるという当たり前のことです。
だから「直した履歴」を聞くほうが早い
見て分からないなら、聞くしかありません。過去に雨漏りがあったか、あったならどこを直したか。ここは遠慮せずに確認していい部分です。
直した履歴があること自体は、悪い話ではありません。むしろ手を入れてきた家だという情報になります。困るのは履歴が分からないまま買ってしまうことです。
雨漏り=屋根の全面やり替え、とは限りません
雨漏りと聞くと、屋根を丸ごとやり替える話を想像するかもしれません。ただ、原因の場所が絞れていれば、部分的な処置で収まることもあります。
瓦屋根で、割れている瓦が数枚という状態なら、その瓦を差し替えるだけで止まることがあります。カラーベスト(化粧スレート)の屋根であれば、雨水の入り方によっては、重なり部分に板金(ガルバリウム鋼板など)を差し込んで雨水を逃がす補修で収まることもあります。どちらも、屋根を全面やり替えるのとは金額の桁が変わります。
反対に、下地の野地板や防水シートまで傷みが及んでいれば、その範囲の補修ややり替えが必要になることがあります。同じ「雨漏り」でも、どこまで水が回っているかで金額が変わるということです。
なお窓まわりについては、サッシそのものを交換するとなると外壁を触る工事になります。この仕組みはサッシ交換は簡単?窓が外壁に埋まっている話と、費用が上がる理由で書いています。
金額が読めないもの|シロアリの被害は見えないところで進む
ここがこの記事でいちばん伝えたいところです。
シロアリの被害は、見えないところで進むことが多いです。食べられるのは木材の内側で、表面は残ることが多いからです。被害が出やすいのは地面に近い床下まわりで、土台や柱の下のほうから傷み、進むと壁の中や間柱などへ広がることがあります。そして被害があった場合、床下の調査などである程度つかめることはあっても、壁の中まで含めた最終的な範囲は、解体して初めて分かる場合があります。

これが何を意味するかというと、金額の想像がつかなくなるということです。
他の工事なら、状態を見ればおおよその見当はつきます。ところがシロアリの場合は、開けてみるまで範囲が確定しないことがあります。柱や土台まで及んでいれば、話は構造の工事になります。金額の見通しが立てにくいこと自体が、大きなリスクになります。
素人が気づけるとしたら、浴室まわりくらい
それでも内見でできることがあるとすれば、浴室まわりの枠がスカスカになっていないかを見るくらいです。湿気の多い場所なので、傷みが出るとしたらここに出やすくなります。
ただ、これもあくまで手がかりです。ここが問題なくても被害がないとは言えませんし、確認できる範囲はごく一部です。
不安を煽ってくる相手には気をつける
見えないものだからこそ、不安につけ込まれやすい分野でもあります。訪問で「無料で点検します」と来て、床下に入ったあとに大きな工事を勧めてくる、という話は昔からあります。
この手の相手への向き合い方は、耐震のときとまったく同じです。その場で決めない、写真や根拠を見せてもらう、他でも見てもらう。詳しくは耐震診断の訪問業者は怪しい?現役二級建築士が「どこを見て判断するか」を解説に書いています。
現実的な選択肢になりにくいもの|建物そのものの傾き
床の傾きには2種類あります。床の下地が傾いている場合と、建物そのものが傾いている場合です。
前者は、さきほど書いたとおりです。原因によって、高さ調整で収まることもあれば、下地からのやり替えになることもあります。幅はありますが、いずれにしても直せます。
問題は後者です。建物自体が傾いている場合、部分的なリフォームでどうにかできる話ではなくなります。建物を持ち上げて水平に戻す工法そのものは存在しますが、費用も工期も、通常のリフォームとは別の世界の話になります。費用や工期を考えると、多くの購入検討者にとって現実的な選択肢になりにくい、というのが正直なところです。
ここは「安く買ってリフォームすればいい」が通用しない領域です。買ったあとに直せば済む、という前提が崩れる唯一のところだと思っています。
ただし、傾きの原因はすぐには決められない
誤解のないように書いておくと、床が傾いている=建物が傾いている、ではありません。下地の傷みだけで傾いていることも普通にあります。
内見で違和感があったからといって、その場で結論を出す必要はありません。ここは専門の調査で切り分ける部分です。不安になって諦めるのも、大丈夫だろうと流すのも、どちらも早すぎます。
内見で本当に確認すべきは「どこまで調査が入っているか」
ここまでを整理すると、こうなります。
- 内見で見えるのは、主に金額の見通しが立つもの
- 床下は素人が自分で確認するのは難しい
- 雨漏りは直したあとだと分からない
- シロアリの被害はほとんど見えない
つまり、自分の目だけで判定しようとすることには限界があります。これは注意力の問題ではなく、見えない場所にあるという構造の問題です。
ですので、内見のときに本当に確認すべきなのは物件そのものではなく、その物件にどこまで調査が入っているかです。ここを先に押さえると、見えない部分の不安がかなり減ります。
聞いておきたいこと
- 既存住宅状況調査(インスペクション)が行われているか。行われているなら、いつ、誰が、どこまで見たのか
- 床下や小屋裏まで見ているか。見える範囲だけの確認で終わっていることもあります
- シロアリの点検や処理の記録があるか。過去に処理していれば、その時期
- 雨漏りの履歴と、直した箇所
- これまでのリフォームの内容と時期
大事なのは、答えが「ある」か「ない」かではありません。分かっていないことが何かを、買う前にはっきりさせておくことです。
調査が入っていない場合はどうするか
入っていないなら、ホームインスペクションなど第三者の調査を依頼するという選択肢があります。費用はかかりますが、あとで「金額が読めないもの」を引く可能性を考えれば、先に払っておく価値がある場面は多いと思います。
特に、築年数が古い物件や、長く空き家だった物件では効いてきます。築年数と地震への強さの関係については築40年の家は地震で大丈夫?新耐震・旧耐震の考え方に書いているので、あわせて確認しておくと判断しやすくなります。
買ったあとの工事まで含めて考えるなら
中古住宅は、買う金額とは別に、直す金額がかかります。そして直す金額は、状態によって大きく変わります。
気になる物件が出てきた段階で、リフォームにいくらかかりそうかを先に見てもらうと、総額で比べられるようになります。物件価格が安くても、直す金額を足すと逆転することはよくあります。
その際は1社だけで決めないことです。同じ家でも、見立ても金額も会社によって変わります。見積もりの読み方についてはリフォームの見積もりが高い?妥当か見分ける5つの視点に書いています。
リフォームを安心に安く|リフォーム比較プロよくある疑問
内見は何回くらい行くべきですか
回数を増やすこと自体は悪くありませんが、見えないものは何回行っても見えません。2回目に行くなら、間取りや日当たりの確認より、調査の記録を見せてもらうほうが得るものが多いと思います。
リフォーム済みの物件なら安心ですか
どこまで直しているかによります。内装だけを新しくした物件と、床下や屋根まで手を入れた物件では、中身がまったく違います。
見た目が新しいことと、傷みが解消されていることは別です。何をどこまで直したのかを聞くのが確実です。
床が少し傾いている気がしました。やめたほうがいいですか
その場では決められません。下地だけの問題なら直せますし、建物自体の傾きなら話が変わります。切り分けるには調査が要るので、気づいた時点で不動産会社に伝えて、確認できるかを相談してみてください。
シロアリの処理をしてあれば大丈夫ですか
処理をしてあること自体は良い情報です。ただ処理と、すでに出た被害の補修は別の話です。処理の記録があるなら、そのときに被害がどこまであったのか、補修をしたのかまで確認できると安心材料になります。
まとめ
- 中古住宅の傷みは費用の予想が立てやすいもの/直し方で金額が変わるもの/金額が読めないもの/現実的な選択肢になりにくいものの4段階に分かれます
- 見える傷みほど金額の見通しが立ち、見えない傷みほど読めなくなる。この逆転が中古住宅のいちばんの落とし穴です
- 床の傾きは仕上げだけでは直りません。数ミリのズレなら根太の下でパッキン調整という手もありますが、その部屋の床はめくります
- 雨漏りは直したあとだと分かりません。履歴を聞くほうが早いです。瓦の差し替えなど部分的な処置で収まることもあります
- シロアリの被害は最終的な範囲が解体して初めて分かる場合があります。金額の見通しが立たないこと自体がリスクです
- 建物そのものの傾きだけは、買ったあとに直せば済むという前提が通用しません
- だから内見で確認すべきは「どこまで調査が入っているか」。分かっていないことを、買う前にはっきりさせておくことです
中古住宅は、状態さえ分かっていれば怖いものではありません。
怖いのは、分からないまま買うことです。
チェックリストを埋めることより、「どこまで調査されているか」を確認するほうが、中古住宅では後悔しにくいと思います。


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